自分の手で何か残るものを作りたい
…………どうして、仏具木地師の道を選ばれたのですか?
この仕事につく前は、コンベンション・コーディネーターとしてキャリアを積んでいました。仕事は会議当日が、一番の山場で会議が終わると、その都度リセットされ、また次の仕事と繰り返されていきます。仕事のやりがいとは裏腹に、ある時から、その刹那的な仕事の対極にある、ものづくりへの関心が強くなってきたのです。国内外からの出席者を会議当日まで、おもてなしするのも仕事の一部で、そんな中で京都の伝統工芸について説明する機会もあり、たまたま見つけた伝統工芸の解説用冊子の中に、「京都伝統工芸専門学校(現TASK京都伝統工芸大学校)」の掲載があり、その存在を知りました。30代に入って、やはり形に残る物が作りたいと、キャリアを捨て専門学校に入学。京指物の技術が得られる木工芸を専攻したのです。
卒業後は茶道具を製作する工房に就職したものの、量産品を扱うことの多い工房で、手仕事への強いこだわりが転職への決意につながることに。2年足らずで今の「雁瀬仏壇仏具製作所」に転職することになりました。知人に勧められ、初めて工房を見学させてもらった時に春日厨子(※)を見て、指物に通じるものを感じ、自分でも作ってみたいと思ったのです。何度も通いつめ、やっと雇ってもらったのがこの世界に入ったきっかけです。
※春日厨子(かすがずし)とは、仏像・舎利・経巻などを納置するものを厨子と呼び、形状がゆるやかな勾配の屋根で,正面に観音開きの扉をつけ,二重基壇に据えて,外側は黒漆塗りで周縁に朱漆を施したもの。
祈りの場を支え続けるものづくり
…………どんな時に仕事のやりがいを感じますか?
木地師の仕事は、仏像以外の寺に必要な木製の仏具を1枚の板から切り出し、ほとんどの場合、ひとりで作り上げるので、荒木の段階を経て、少しづつ形になっていく行程が面白いのです。注文品を次の工程の職人につないで、分業によって仕上げていくので完成品を見る事は少ないのですが、ただ自分がいなくなった後も、どこかのお寺や祈りの場で50年、100年、それ以上生かされていると思うとやりがいのある仕事だと思います。
仏具の世界で木地師としてもっと極めたい
…………今後どんな風に仕事を展開したいですか?
木地師として覚えることも多く、技術的にもまだまだで納品した後も納得のいくものができたと思えることはあまりないのです。工房には常備しているたくさんの木材があり、カンナだけでも数種類、製作に必要な道具や機械なども多く、思い通りに使いこなすだけでも時間や技術が必要です。これからも職人として木地師として、きちんと伝統の技に則った完成度の高いもの作りを目指していきたいと思っています。
(女性で木地師として『京都府仏具協同組合』に加入している方は小西さんおひとりです。)
原木を仏壇仏具に形作り、彫りの部分は彫刻の工程へ、 それ以外は漆塗りの工程に渡すまでが木地の分野。
主な材料は桧、松、欅など。各宗派毎に定められた形で作られる。堅牢な造りと繊細なデザインとのバランスを考え仏壇・仏具の型を製作する。
京都府仏具協同組合より引用