手先の器用さを生かした仕事に
…………どうして、塗師の道を選ばれたのですか?
元々学校の勉強には興味がありませんでした。高校に進学したくないと担任の先生に相談したところ「君は手先が器用だから向いているかもしれない」と求人のあった塗師の仕事を進めてくれたのです。見学に行ったその日に、工房の仕事は面白そうで、ここでやっていけそうと直感し、いまに至っています。
最初の工房では塗装される前の木地の上に和紙や寒冷紗(布)を貼ると言う作業を4年間やり続けました。ちょうど同じ工房で働いていた今の主人が独立することとなり、のちに退社しいまのNao工房へ移ることになったのが20歳の頃です。
その後、塗師の仕事を続け、夫婦で伝統工芸士の認定も取ることができました。全国で4000人近くいる伝統工芸士の中で夫婦揃って資格を持っているのは稀だそうです。
次世代に誇れる伝統工芸の仕事
…………どんな時に仕事のやりがいを感じますか?
私がさせていただいた仕事の中には、全国各地の歴史あるお寺のものがたくさんあります。私が一生終えた後も、そのお寺には仕事が残り、次の世代の人に祈ってもらえれるのはとてもありがたいことです。
漆の耐久性は長く、塗師として自分の生涯より長く残せる仕事ができるという事にやりがいを感じています。命ある限り、塗師の仕事をやり続けたいです。
仏具に携わる職人が技を生かせ続けられるように
‥‥今後どんなことをしていきたいですか
本来、仏具職人として言われたことを伝統の技を生かし、しっかりやりたいという職人気質なところがあります。
しかし、この先、仏具の仕事が増えていくという見通しがないいま、仏具の世界や塗師の仕事に注目していただけるようなアプローチが必要なのではと思っています。これは仕事をプロデュースしてくれる井上秀峰の井上さんや主人も同じ考えだと思います。
Nao工房では、漆の配合により、発色が上がる技術に特化し、他社との差別化をはかています。アニメのキャラクターや現在アート作品に塗りを施すなど、今まで興味のなかった人に注目してもらいたいと、さまざまな試みにも挑戦しています。そのことで、仏具の世界や塗師の仕事を知ってもらう機会になればと思います。私だけでなく、木地師、彩色師、仏師など仏具に携わるみんなの仕事が続くことを願ってます。
黒色や朱色などの色に表面を塗り上げる工程。美しく仕上げるためには下地の処理が重要。反りや割れを防ぐため刻苧や布張、和紙張などで下地処理を調えた後、下地塗を始める。下地には砥の粉と膠で調合した半田地と、砥の粉と生漆で調合したか堅地がある。下地錆を何回も付けて、砥石で砥ぎ下地を仕上げる。漆塗りは、良質の天然うるしを 漉紙数枚で漉し、下塗り中塗りを経て乾燥後、炭で研ぎ表面を整えてから上塗りをする。
京都府仏具協同組合より引用